東京高等裁判所 昭和43年(行ケ)159号 判決
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〔事実〕第二 請求の原因
原告ら訴訟代理人は、本訴請求の原因として、次のとおり述べた。
一 特許庁における手続の経緯
原告らは、昭和四十一年六月十七日、「原子炉」の発明(発明者エイリク・ニコル・ペルテセン)につき特許出願をしたところ、昭和四十二年五月二十九日拒絶理由の通知があつたので、同年十月二十七日付手続補正書により特許請求の範囲その他を訂正したが、同年十二月九日、右特許請求の範囲の訂正は、明細書の要旨を変更するものとして、補正却下の決定があつたので、昭和四十三年四月二十二日、これに対する不服の審判を請求し、同年補正審判第二二号事件として審理されたが同年六月六日、「本件審判の請求は、成り立たない」旨の審決があり、その謄本は、同年七月二十七日、原告らに送達された(出訴のための期間は三か月間延長)。
二 本願の特許請求の範囲
(一) 補正前の特許請求の範囲
原子炉核心部を有する上昇環及び入口及び出口を有する下降環を持つ流体循環回路を有し、上記下降環が入口の下流に配置された流れの制限される断面の部分を備えた原子炉。
(二) 補正後の特許請求の範囲
炉心と炉心に直列に接続された、炉心を貫流して流体を自然循環させるための閉流体回路を構成する装置とを具え、前記装置は、炉心の入口側に隣接し、それと連通する下降環と、炉心の出口側に隣接し、それと連通する上昇環とを含んでいる沸騰水型原子炉であつて、下降環は制限された流れ断面をもつ部分を含み、前記部分の長さは下降環の全長の1/2〜3/4であることを特徴とする沸騰水型原子炉。
三 本件審決理由の要点
前項(二)の制限された流れ断面をもつ部分を下降環の1/2〜3/4にした点については、出願当初の明細書には記載がないから、本件補正は、明細書の要旨を実質上変更したものである。請求人は、制限された流れ断面をもつ部分はデイフユーザーを含むから、実施例に示されたものの比率が0.54である以上、要旨変更ではない」旨主張するが、出願当初の明細書には「制限された流れ断面をもつ部分」という語については何らの定義もされておらず下降環に関する数値限定については、「制限通路が下降環中1/2〜3/4の長さを占める。」との記載があるにすぎず、下降環については、その上端は、明細書第十一頁一九〜二〇行の表現から上昇環の上端と推定され、その下端は、その個所においては、「原子炉核心部2の底まで計算した下降環」あるいは同第十四頁二〇行の「下降環の底部すなわち制限通路」の表現から判断は困難であるが、少なくともデイフユーザーの先端と認められる記載はなく、明細書全体を通じて、制限通路とデイフユーザーは区別されており、デイフユーザーを下降環に含む旨の記載はないのみならず、作用効果についても、下降環中に占める制限通路とデイフユーザーの比率を1/2〜3/4にしたことの意義の記載は存しない。
〔判決理由〕(本件審決を取り消すべき事由の有無について)
二 本件に関する出願当初の明細書に原告主張の各記載のあること及び本題特許請求の範囲にいう「制限された流れ断面をもつ部分」には制限通路及びデイフエーザーを含むことは、当事者間に争いのないところ、原告は、前掲出願当初の明細書の各記載から認めうべき下降環に対するデイフユーザーの長さの比(約1/4)と下降環に対する制限通路の長さの比とを加算すれば、制限された流れ断面をもつ部分の下降環全長に対する割合は、後者の1/2〜3/4という数値が得られるから、右補正部分は出願当初の明細書に記載された範囲内の補正である旨主張するが、この主張は当を得ないものというほかはない。すなわち、前掲出願当初の明細書の実施例に示された具体的長さを対比すれば、右実施例においては、デイフユーザーと下降環の各長さの比はほぼ一対四の比率となつていることは明らかであるが、右比率は、補正後の特許請求の範囲における「前記部分(制限された流れ断面をもつ部分)の長さは下降環の全長の1/2〜3/4であること」という技術思想の数多くの実施の態様(観念的には、後に説明するところから明らかなように、無数に存在しうる。)のきわめて限られた場合の例にのみ妥当するものであり、右補正部分に示されたすべての場合に妥当するものでありえないこと、換言すれば、補正後の数値範囲は補正前の明細書の記載事項よりも広い範囲に及んでいることも、また、後に説明するとおり、きわめて明らかなところである。したがつて、前記補正された特許請求の範囲には、右実施例に示された比率以外のものを含み、しかも、右比率以外のものについては出願当初の明細書中に何らの記載もないことは、原告の明らかに争わないところであるから、前記補正部分は明細書の要旨を変更するものとして却下を免れないことは、いうまでもない。
いま、本願の沸騰水型原子炉において、デイフユーザーの下降環に対する長さの割合が約1/4であるということが、補正後の特許請求の範囲の前記部分の長さは下降環の全長の1/2〜3/4であること」という構造の中のきわめて限られた一実施の態様にすぎない所以を、さらに附加説明すると、次のとおりである(説明の便宜上数式を用いる。)
補正後の特許請求の範囲における前掲部分の下降環に対する長さ割合をZ、制限通路の下降環に対する長さ割合をY、デイフユーザーの下降環に対する長さ割合をXとすると、Z=X+Y(この関係は当事者間に争いがない。)、したがつて、X=Z−Yということになる。しかしてであるから、ということになることは計数上明らかなところである(ちなみに、右の0はZの極小値からYの極大値を引いたものであり、1/2はZの極大値からYの極小値を引いたものである。
この数式の示すところからみれば、Zが下降環全長の1/2〜3/4であり、Yが下降環全長の1/4〜1/2であるという二つの条件を満たす場合のX、すなわちデイフユーザーの下降環に対する長さ割合は、0(実際にはゼロに近い大きさ)から1/2までなければならないということになる。実施例から帰納されるという(約)1/4という数値が、その中のきわめて限られた条件下の一実施態様にのみ妥当するにすぎないものであることは、多くの説明を要しないことであろう。
(もし、補正後の特許請求の範囲において、デイフユーザーの下降環に対する長さの比率すなわち右のXが常に約1/4であることが、発明の要旨として限定されているのであれば、原告主張の加算により補正後の特許請求の範囲に示された技術思想のすべてが出願当初の明細書に記載されていたと解する余地があるとしても、右のようなデイフユーザーの長さを限定する思想が補正後の明細書にみられないことは、成立に争いのない甲第三号証により明らかである以上、前記補正後の技術思想は当初明細書に記載された事項の範囲をこえるものといわねばならない。)
(むすび)
三 叙上のとおりであるから、その主張の点に判断を誤つた違法があるとして本件審決の取消を求める原告らの本訴請求は、理由がないものといわざるをえない。よつて、これを棄却する。
(三宅正雄 杉山克彦 武居二郎)